Am just sharing the first few paragraphs of Ryu Murakami's "Coin Locker Babies". With Yomitan, the first chapters felt approachable, and I thought, maybe there'd be someone else in the sub curious about the book too. (Credit to u/Smin73, who mentioned it in their post here: https://www.reddit.com/r/LearnJapanese/comments/1hviezu/2024\_goal\_complete\_23\_books\_23\_authors\_7500\_pages/)
I think a lot of surreal bizarro grotesque violent things are meant to happen later, which kinda just enhances the appeal. If you've read it, please no spoilers!! There's a kindle sample on amazon.co.jp, and there's also this podcast episode (with transcript) discussing the book here : https://listen.style/p/radiocatwings/f8mbhfsa
女は赤ん坊の腹を押しそのすぐ下の性器を口に含んだ。いつも吸っているアメリカ製の薄荷入り煙草より細くて生魚の味がした。泣きださないかどうか見ていたが、手足を動かす気配すらないので赤ん坊の顔に貼り付けていた薄いビニールを剝がした。段ボール箱の底にタオルを二枚重ねて敷き、赤ん坊をその中に入れてガムテープを巻き、紐で結んだ。表と横に太い字ででたらめの住所と名前を書いた。化粧の続きを済ませ水玉模様のワンピースに足を通したが、また張っている乳房が痛みだし立ったまま右手で揉み解ほぐした。絨毯に垂れた白濁を拭かずにサンダルをつっかけ、赤ん坊の入った段ボール箱を抱えて外に出た。タクシーを拾う時、女はもう少しで完成するレース編みのテーブルクロスのことを思い出して、出来上がったらその上にゼラニウムの鉢を置こうと決めた。ひどい暑さで日向たに立っていると眩暈めまいがした。タクシーのラジオは記録的な猛暑で老人や病人が六人も死亡したと伝えた。駅に着くと女は一番奥のコインロッカーに段ボールを押し込み、鍵を生理綿に包んで便所に捨てた。熱と埃で腫らんでいる構内を出てデパートに入り、汗がすっかり乾いてしまうまで休憩所で煙草を吸った。パンティストッキングと漂白剤とマニキュア液を買いオレンジジュースを飲んだ。喉が乾いてしようがなかった。洗面所で、買ったばかりのマニキュアをていねいに塗っていった。
女が左手の親指を塗り終えようとしている頃、暗い箱の中、仮死状態だった赤ん坊は全身に汗を搔き始めた。最初額と胸と腋の下を濡らした汗はしだいに全身を被って赤ん坊の体を冷やした。指がピクリと動き口が開いた。そして突然に爆発的に泣き出した。暑さのせいだった。空気は湿って重く二重に密閉された箱は安らかに眠るには不快過ぎた。熱は通常の数倍の速さで血を送り目を覚ませと促した。赤ん坊は熱に充ちた不快極まる暗くて小さな夏の箱の中でもう一度誕生した、最初に女の股を出て空気に触れてから七十六時間後に。赤ん坊は発見されるまで叫び続けた。
警察病院を経て乳児院に収容された赤ん坊は一ヵ月後に名前が付けられた。関口菊之。関口というのは女が段ボールに書いたでたらめな苗字だ。菊之は、横浜市北区役所福祉事業課の捨子命名表十八番目の名前で、関口菊之は一九七二年七月十八日に発見されたのである。
鉄柵が囲み道を隔てて墓地が見える乳児院で関口菊之は育った。道には桜の並木があった。桜野聖母乳児院。仲間が多勢いた。関口菊之はキクと呼ばれるようになった。言葉を憶えたキクはシスター達が毎日同じことを言って祈ってくれるのを聞いた。信じなさい、お父様は空の上で見守っていらっしゃいます。シスターの言うお父様は、礼拝堂の壁に掛けてある絵の中にいるのだった。髭を生やしたお父様は海に面した断崖の上で生まれたばかりの羊を天に向かって捧げ持っていた。キクはいつも同じことを質問した。この絵の中のどこに自分はいるのか、このお父様は外人だ。シスターはこう答えた。これはまだあなたが生まれる前のお父様の姿を描いたものです、お父様はあなただけではなく他のいろいろなものを誕生させようとなさってます、目や髪の色は関係ありません。
桜野聖母乳児院の仲間達は顔の可愛い順に養子として貰われていった。日曜日、お祈りが終わり外で遊んでいるキク達を何組もの男女が見に来た。キクは醜くかったわけではない。しかし一番人気があるのは交通遺児で捨子はよほど可愛くないと売れなかった。走ることのできる年齢までキクは売れ残った。
この頃キクはまだ自分がコインロッカーで生まれたことを知らされていなかった。それを教えたのはハシと呼ばれる子供だ。溝内橋男も売れ残りの仲間だった。ハシは砂場で話しかけてきた。ねえ、二人しかいないんだよ。他のみんなは死んだんだ、コインロッカーで生き返ったのは、君と、僕の二人だけなんだよ。ハシは瘦せて弱視だった。濡れているような目はいつも遠くを見ているようで、キクは話しかけられて自分が透明人間になったような気がした。ハシからは薬の匂いがした。暗く熱い箱の中で叫び続け警察官を振り返らせたキクと違って、ハシはその病弱さのせいで助かったのだ。ハシを捨てた女は赤ん坊を洗わずに全裸で紙袋に詰めコインロッカーに押し込んだ。ハシは蛋白アレルギーによる湿疹のため全身に天花粉を塗られ咳をし続け嘔吐した。病気と薬の匂いが箱の隙間から流れ出て偶然通りかかった盲導犬を吠えさせたのだ。それね、大きくて黒い犬だったの、だから僕ね、犬は大事にするの、犬は大好きなんだ。
by rantouda